うだるようなあるひの午後

 もう夏も終わるというのに気温が下がらない。「暦のうえでは、今日から秋になります。」なんて聞いたのは一昨日だったか。けだるい空気、リビングじゅうの窓を全部あけてぐったりとソファに寝そべる。融ける、って、きっとこんなかんじだ。さっきまでそのへんにあった雑誌で自分を扇いでいたけれど、それをするのさえも億劫になったから、やめた。扇ぐときの、ページ同士が擦れるごく小さな音とか、風が顔にあたって髪がさわさわ動く音とか、そういうものまで止めてしまうと、あとは開け放たれた窓から入ってくる蝉の声くらいしか聞こえない。すごくうるさい。正直、耳障りだ(七年も我慢してやっと鳴ける彼らに、こういうことを言うのは酷な気がしないこともないけれど)。 ソファに自分の体温が移って居心地が悪い。低く呻きながらごろんと寝返りをうった。うつぶせになると同時に左手と左足がソファに乗っていられなくなって、ぺたり。床と手足の先が接着した。フローリングになっているそこは、接している部分からじわりじわりと熱を奪ってゆく。生温くなってしまったソファの上よりも、ひんやりとしたそこはとても、とても魅力的で。ぼんやりとした頭で、そこは寝る場所じゃない、なんて考えられるはずもなく。だらりとからだの力を抜けば、重力に耐え切れなくなったそれは見事にソファから滑り落ちた。手足をのばして寝転べば、火照った全身からゆっくりと、しかし確実に熱がひいていくのを感じ、うっとりと目を閉じる。部屋の外では相変わらずヤツらが大合唱しているし、気温が下がったわけではないんだけど。もう どうでもいいや。あまりにもそこが心地良いんで、うっかり、目を開けるのも面倒になってしまった。ああ、こんな姿、あのひとに見られでもしたら。-------床で寝るのがシュミなの、なんて、可愛げのないことを言うんだろう。そういうときのあのひとの、うすく笑った表情は、なかなか可愛いんだけど。素直にそんな感想を漏らすと、ホラ。嫌そうな、照れているような表情で------ばか。そう言って、顔を逸らしてしまう。 ザーーー。大きな音で、意識は現実に引き戻された。聴覚だけが突然覚醒したものだから、体が思うように動かない。なかなか離れようとしないまぶたを無理やりにひらいて、音のするほうを見た。リビングの、ベランダへ通じるいちばん大きな窓。そこから見える外の景色は灰色に霞んでいて------ああ、雨。吹き込まれると困るなぁとか考えながら重たい体を起こして、のろのろと窓へ向かう。ガラガラと音を立ててそれを閉めると、小さなため息がこぼれた。途端、ソファのほうから、自分を呼ぶ電子音。5秒ほどで鳴り止んだソレはメールの受信を表していた。ぺたぺたと歩み寄り、気だるく画面を開いた------『海にいこう』 たったそれだけ。なんて、色気のない!でも、不覚にも、頬の筋肉がゆるんでしまった。にやける口元をおさえて、返信ボタンを押す。ふと外を見ると、さっきの酷い雨は止んでいた。携帯を片手に、もういちど窓を開けようと移動する。雨が通り過ぎた後は、一瞬、音がなくなる。肌に触れる空気もひやりと冷たくて、きっと今外に出たら気持ち良いのだろう。カチカチ、カチ。最後の文字を打ち終わり、送信ボタンを押した。



『いいね。今すぐ迎えにいくよ。』
どうもあのひとにめろめろらしい。



登場人物はわたしじゃないです、笑
男女カプルでも、なかよしなおんなのこ達でも
いろいろ妄想してもらえたら、幸い。